シャン族の村で

焼きそばの昼食が終わると私は家の周囲を見学して回った。

ここにはちゃんと囲いのついたトイレがあり、一応東南アジア方式の水洗となっている。ただし排水溝を辿ってみたところ、田んぼの周囲に人工的に作られた小川にそのまま流れ込むようになっていて、ちょっと不衛生ではある。

また庭には井戸が掘られているので覗いて見たところ、濁った水がほんの少ししかない様子だった。この水は一体何に使うのだろう。

 

ここの生活様式の中で私が一番感心したことは豚小屋の作りである。というのもここのブタ君たちは高床式の小屋で生活しているからである。排泄物や食べ散らかして床の隙間から落ちた餌などは、下で待ち構えている鶏たちの餌になっていた。清潔好きで知られるブタ君たちにとってこの住まいは実に快適そうに見えるし、何といっても合理的である。このような形はさすがに山中では見ることのないものだった。

 

とはいえ、ほとんど放し飼いの山のブタ君たちと比べてこちらの方が暮らしやすいとは言えない。人間の生活が都市化すればするほど家畜の生活も自由度が減少するのである。

シャン族の民家(ダイニングルーム)
     シャン族の民家(ダイニングルーム)

家の中で賑やかな話し声が聞こえてきたので覗いてみると、ダイニング・ルームとおぼしき板の間に座り込んだビットと夫が、この家の青年と酒盛りの真っ最中だ。

 

中に入って行くと夫が木片の入った瓶を持ち上げて「これツリー・ウィスキーって言うんだってさ。ちょっと飲んでみない?」と誘う。何だかこれも強そうだ。用心してなめるように味わってみたが、やっぱり火を吹きそうなくらい強い。ただ木の香りが移っているため香りは良かった。

彼らの酒盛りにつき合いながらシャンの青年にいろいろ質問してみた。英語を話せるので片言とはいえいろいろな話ができる。彼らは日常語としては北部タイ語を話すのだそうだ。

 

この村は人口約500人で学校もある。周辺の村の子供たちも合わせて約200人くらいの子供たちが通学しているとのこと。現在は英語の授業を受けていないけれど、来年新しい学校ができると英語教育も行われる見込みだそうだ。以前はほんの数人の先生しかいなかったけれど現在は20人もいるそうである。

ビットと私たちが乗った四駆
      ビットと私たちが乗った四駆

トレッキングのことに話が及ぶと、ビットが私のことを「ちゃんと歩けるか心配していたけれど、ショート・レッグでちょこまか良く歩いたねえ。まるで犬のようだった。」と感心しながらも私をからかう。「何よう。ショート・レッグで悪かったわねえ。」とふざけて怒った振りして手を上げたところへ、夫は追い打ちをかけるようなことを口走った。

 

「ビットちゃん、それは違うよ。それを言うなら『子豚のように』って言うんだよ」 と、とんでもない合いの手を入れたのである。みんなで大笑いとなる。怒った振りをしながら私は思った。わが夫はなんと上手な比喩を使うものか、と。フン!

 

 

17 再びダレット・レストランで