昼食

ランチ休憩場所にはおじさんが待機していてビットの食事作りの手伝いをするらしい。彼はすぐ近くの川から大なべ一杯の水を汲んできた。汗をかいたので少しさっぱりしようと思い私たちも川に降りていった。水はそれほど冷たくはないけれど顔を洗うと気持が良い。ついでにタオルを洗って体も拭いた。この暑さで3日間もシャワーを浴びられないのはかなりきつい。

 

待ちに待ったランチは塩味のインスタント・ラーメンだった。おなかが空いていたのであっという間に1杯平らげてすぐおかわりをしてしまう。たっぷりキャベツが入っていて薄味でとても美味しい。袋入のチリ・パウダーも配られたけれど私は入れないでおいた。辛いのは苦手だ。

 

昼食後はみんな床に並んで昼寝だ。私は蚊が多いのが気になってとても眠れないのでしばらくぼんやりしていた。アメリカ人のフレッドは隅っこの方に横になって何やら分厚い本を読んでいる。彼の普段の神経質そうな雰囲気と黒縁眼鏡を見ていたら、私は彼のニックネームがふいと浮かんできた。これからはひそかに「ガリ勉くん」と呼ぶことにしよう。

 

午後は3つの山を越えるそうだ。ビットの話では3つ目は特にきついらしい。

川の中をジャブジャブ歩いたり、あちこちでどしーんどしーんとしりもちをつきながら私たち一行はひたすら歩き続けた。途中竹が生い茂っているところに差しかかると、ビットは夕食の為のたけのこ掘りを始めた。私は助手となって彼の後を追っかけた。片手に戦利品を入れるための袋を持ち、片手にその戦利品を記録しておくためのカメラを持って疲れた足を引きずりながら林の中を走り回った。

 

全員に行き渡る程のたけのこはかなりの量が必要だった。戦利品の入った袋はビットの命令でトーレンのザックの下にぶら下げられた。少しばかり重そうなので私は心の中で同情した。

 

最後の山はビットの言葉どおり本当にきつい勾配だ。道はジグザグになっていない。急勾配を直線的に進んでいくので、みんなふうふう言いながら無言になる。途中あんまり暑いのでふと立ち止まって汗を拭いているとビットが何やら叫んでいる。「ドント・ストップ」だそうだ。「ハイハイ分かりましたよ」とつぶやきながら私は歩き続ける。彼は立ち止まるともう歩けなくなっちゃうよと言いたいのだろう。

 

頂上に出ると全員靴を脱いでヒルのチェックだ。私は靴の方は大丈夫だったけれどTシャツの胸のところにへばりついているのを発見した。ビットがライターを使ってTシャツからひきはがし、その後で火あぶりの刑を実行した。しかしヒルといっても私のイメージとは全然違う外観をしている。ちょっと目では尺取虫みたいな姿なのである。こんな虫がそんなに大騒ぎするほどのものだろうかと思ったが、ここへ来るまでの間にも何回か厳重にチェックしたところを見ると、きっと恐い虫なのだろう。

 

彼は「タイ製のシャツならライターで直接あぶっても大丈夫なんだけどなあ」などと言っている。「ふーんこれはタイで買ったものだけど、フランス製のブランド品だから駄目か」。バーゲンで見つけた高級Tシャツをつまんで私はつぶやいた。

 

山を降りて行くと大きな川に突き当たった。川には半分沈みかかったぼろぼろのいかだが浮かんでいる。「ひょっとしてあれに乗れっていうのかねえ」と思わずみんなの口からため息が出た。やっぱり予想通りである。双子のオーウェンとジェームスが乗るとほとんど沈んでしまっている様子だ。まあ川向こうに渡るだけだから何とかなるだろうと私たちは裸足になった。いかだは流れてしまわないように川の向こうからこちらに張ったロープにつながれていて、そのロープを手繰って向こうに渡るようになっていた。心配するほどのこともなくあっけなく向こう岸に着いた。

 

するとみな一斉にパンツ1枚になってザブーンと川に飛び込んだ。なんとシャンプーを頭に振りかけているヤツまでいる。いいなあ気持よさそうだなあと彼らを横目で見ながら、私はタオルでちまちまと体を拭くだけだった。水着も持ってないし、こういう時女1人というのは何かと不便なものだ。

 

ここでトイレをすませておこうとやぶの中に分け入った私は、木のつるに気を取られているうちに何かをズボッと踏ん付けてしまった。足首まで埋っている。よく見てみると牛糞だ。せっかく川できれいにした足を引きずってまた逆戻りだ。「まあ川の側で良かったかも」とつぶやきながらせっせっと足を洗っていると、夫が「どうしたの?」と聞いてきたので正直に告白する。彼はお腹を抱えて大笑いしている。そりゃ笑いたくもなるよね。

 

 

12 ラフー族の村